近所の本屋に併設しているカフェで涼んでいた時のこと。
一人でお茶していた私の前の席に、40代くらいのお父さんと小学校低学年くらいの女の子がやってきた。
ついて早々、女の子はスマホのゲームに夢中になっている。「わー、おおー、ダメダメー、やったー」とリアクションがいかにも自然で楽しげなのだ。
それを横で見ていたお父さん。楽しそうな様子をまるごと受け止めている。おおー、だからこんな自然な感じになるのか。
そのうちお父さんは店内閲覧用の本を持ってきた。読むのかなと思って見ていると、おもむろに本に書いてあるクイズを娘に出して娘のゲームを邪魔し始めた。
ゲームに没頭しているのを邪魔されてうるさがるのかと思いきや、娘はきゃっきゃ言って喜んでいる。本気のイチャイチャ親子だ。
二人でいるこの空間を、この時間をめちゃくちゃ楽しんでる。いいなあ。「今」を生きてるって感じだ。
ゲームをやり続けて頭が悪くなっちゃいそうだという未来への不安や、無邪気に店内ではしゃいでいて、周囲の人の迷惑になるんじゃないかという恐れは一切なし。
お互いの楽しさが溢れていてうっとりしてしまった。
子供は目の前のことに夢中になる。普通のお父さんやお母さんは自分の用事に夢中になって、子供が夢中になっていることには気が付かない。子供がキラキラしているその瞬間を逃してしまうのだ。
でもこのお父さんは違う。いいなあ。子供と同じ世界に生きてるんだなあ。憧れるなあ。
こういう人はどんな時も、目の前のことを柔らかく受け止めて生きているんだろうなと思う。
例えばいつもと違う猫缶を出された飼い猫が、餌を皿ごとひっくり返してもきっと怒らない。
窓ガラスを掃除しようと、ホースで水をかけたらでガラスが開いていて、部屋の中が海みたいになっちゃったりしても、きっと怒ったりしない。
笑って楽しめちゃうタイプなのだ。
私だって努力すればきっとなれる。例えば最近は休みの日は夫と二人きりという事が多いので、夫との時間を楽しもうとカフェに出かけてみた。
そして自然に会話を楽しもうとがんばる。夫にクイズを出してみたり、ゲームで遊ぶ夫を横からのぞいてみたり。
でも楽しもうとすればするほど楽しさは逃げて行ってしまう。楽しさはがんばるものじゃなくて、湧いてくるものなのだ。
あぶないあぶない。素敵な親子を見たから羨ましくなってしまったのだ。あんな風になりたいなって。
でも私は私だったっけ。うちの夫婦なんて空気みたいなもの。二人で一緒にいるだけでいつも満足してたのに。私以外の誰かになろうとしたから楽しさが逃げていっちゃったんだ。
いつかあのお父さんみたいな人になるのを夢に見つつ、ちょっとヘタレな私を生きていこう。